Album Review (by Satoru Matsuura)

 

 

音楽ライターとしてご活躍中の松浦達氏によるアルバムレビューをご紹介いたします。

松浦さん、ありがとうございました!

 

 

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独白のように電子音が唄い、通底には、再評価の瀬になるユーミンが持つような刹那の感傷が歌謡的に密やかに紡がれる。初期の弾むような明るい基調を求めてきた人たちからすると、全体のトーンは少しダークと思えるかもしれなく、実験的要素も含んでいる。ただ、このタイトルが何より示している『Normal Position』に行き着くまでには相当の葛藤と、模索、及び自身との音楽を通じた長い対話作業ではなかったのだろうかとも思える。度々、体調不良もあった、と彼女自身はブログに記しているが、それでも、出来上がったこの作品は過去にない冬の朝のような清澄な空気感さえ感じさせる。

憂鬱は澱みたく、視界や想いをときに塞ぐが、表現としては日本でも、古代から、歌人たちが「いぶせ」(憂鬱)な気分を歌っていたとおり、当然のことでもある。病名がつかず、病気にならずとも、この難渋な時代を素面に生活することそのものに、気分が晴れぬ事柄は尽きないだろう。では、すべてから引きこもり、人との縁を断ち、最低限の生活姿勢を保てば、“いぶせ”は消えるのか、というと、そうではなく、今、社会と非=関係でいられる理由はない。想い出や記憶が人を動かせ、縛りつけてしまうのと同じくして。孤独の「内部」には社会のノイズと呼応している。

悲しみや暗がり、また、怒りや諦めを含んでいるがゆえに、不思議と優しさが滲む作品である。という反語表現をしてしまうには安易に思えるが、多くの喜怒哀楽を刻んだ曲がアルバムに並び、聴き終えたあとに感じるのはウォームな感覚だったりするのは、もはや過ぎ去り、喪ってしまった景色、都度に沸き起こった感情や冷淡な現実に対して、彼女が「それでも、自分は変わりようがない」と、聴き手の心に投函するささやかな手紙みたいな何かを感じるからかもしれない。

ビートもよりミニマルになり、アンビエント・ミュージックからの影響が見える曲もあれば、同時に、70年代後半から80年代前半のエレポップの質感がより表前している。デヴィッド・ボウイが疲弊した心身から逃れるためのベルリンの地で作ったタイトルもそのままの1977年の『ロウ』、YMOでは1981年の『BGM』といった作品を筆者は想い出す。彼女の敬愛する細野晴臣の所属していたYMOは饒舌なデビューから『BGM』で転換期を経た。曲タイトルには「ハッピーエンド」というイロニカルなものまであり、内容は前衛性が強い。

目立った曲に触れていくと、1曲目を飾る「Normal Position」はポエトリー・リーディング調に言葉を置いていき、静かに盛り上がるが、ミニマルな反復に貫かれたものでリリックは重く、切実さを含んでいる。ライヴでも披露されていた「Warm Lights」はハーモニー・ワークの美しさと、抑え気味な感情のトーンに合わせた声がたおやかに響く佳曲。「返事」、「ニアミス」と続く中盤はこのアルバムの肝たる気がする。Sayoko-daisyというアーティストは“真面目に懸命に毎日を生きる、一生活者で真剣なリスナー”で、好きなアーティストの新譜やライヴにははしゃいで行き、自身のルーツたるものは衒いなくリスペクトする。だから、アーティストになり、音楽を発信し、それが思わぬ反響を起こしたことで、受けた傷もあったとも察する。それが、「Normal Position」の「私はこの仕事には向いてない」という歌詞のリフレインにもつながりもするのだろうが、では、「返事」、「ニアミス」がなぜ、今作には肝だと思ったのは真面目に懸命に毎日を生きる一生活者であり、真剣なリスナーである部分が出ているからと感じたのもある。背伸びすることもなく、過度に前衛的に傾ぐこともない、フラットな叙情性。だから、アルバム内でももっとも遊んでいるバンヒロシ氏のひとことも入った曲「Teach Your Beat」などの意味が乖離せず、活きてくる。ラストの「Chime!」は淡く幻惑した情景の中で、想い出を巡り、「知ってるよ あなたがいつもまっすぐに歩いていること 大丈夫 そのままでいてね 明日はいいことあるよ」と歌うさまには胸を打たれる。

今日を知っている人は明日を歌えるのだと思う。

 

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